保健医療(高齢者の精神障害)

 

@高齢者精神疾患の特徴

・非定型で訴えが多彩

 

A老年期うつ病

・老年期うつ病とは、老年期(65歳以上)の方がかかるうつ病のことで、気分がめいる物事に対する興味や喜びがない食欲がないよく眠れないいつも体がだるい集中できないなどといった症状が2週間以上にわたってほとんど毎日続く状態です。

・症状→不安、緊張、焦燥感が目立ち、心気的な訴え(病気への不安)。意欲や集中力の低下、認知機能の低下

・治療・対処法→近年、より副作用の少ない非定型抗精神病薬と呼ばれる薬が登場し、高齢者に対しても第一選択薬として使われるようになっています。幻覚・妄想への対応は、頭ごなしに否定もしないし、といって同調もしないということが基本です。訴えの真偽に焦点をあてるのではなく、本人が感じている不安やよりどころのなさに共感をもって耳を傾ける必要があります。

 

B統合失調症

・統合失調症は思春期から青年期に発症し、幻覚、妄想、自我障害といった陽性症状と、感情鈍麻、無為自閉といった陰性症状により特徴づけられる疾患です。

・症状

1、前駆期の症状

統合失調症の発症形式はさまざまでありますが、多くの症例で初回精神病エピソード前に非特異的な前駆症状がみられます。たとえば、落ち着きのなさ、抑うつ気分、不安焦燥、集中力低下といった症状から、統合失調症の診断基準を満たさない程度の短期間・間欠的な精神病症状や軽度の幻覚・妄想などの陽性症状があげられます。これらの症状は後方視的には前駆症状とみなすことができますが、前駆症状を呈するものすべてが統合失調症をはじめとする精神病状態を発症するわけではなく、偽陽性を含むことに注意が必要です。精神病への発展のいかんにかかわらず、早期治療の重要性からも、この時期の病態に対してその援助希求に対し適切な対処が求められています。

2、急性期の症状

初回精神病エピソードや再発時の急性期には幻覚、妄想、自我障害などの陽性症状を中心に、思考のまとまらなさ(連合弛緩や滅裂思考)、自発性減退、感情鈍麻や平抜化、不安、焦燥、興奮、自閉など多彩な精神症状が出現します。幻覚の種類としては幻聴が多く、その内容は複数の声が患者のことを話し合う対話形式の幻聴や、自分の考えや行動を批判する幻聴などが特徴的です。妄想としては被害的内容の妄想(被害関係妄想)が特徴的です。多くの患者が病識に乏しいことも特徴です。

3、慢性期の症状

慢性的な経過をたどるにつれて、感情鈍麻、思考や会話の貧困化、無為自閉といった陰性症状が前景となります。また、記憶、注意、遂行機能などの認知機能にも障害を及ぼすため 社会生活にさまざまな支障が生じます。社会機能の低下は幻覚や妄想などの陽性症状とは相関せず、病初期の陰性症状や認知機能障害と相関することがわかっており、認知機能障害は予後の指標の一つとも考えられています。

慢性期においても幻覚妄想はしばしばみられますが、急性期に比較すると不安や恐怖などの感情反応を伴わないことが多いです。

 

C妄想性障害

・妄想性障害は、一つまたは複数の誤った思いこみがあり、それが少なくとも1ヵ月間持続するのが特徴です。

・症状

妄想性障害は既存の妄想性パーソナリティ障害に起因することがあります(パーソナリティ障害:A群:奇妙で風変わりな行動を参照)。妄想性パーソナリティ障害の人は、成人期初期に始まり、他者の行動や動機に対して全般的な不信や疑念を抱きます。発症初期には、利用されていると感じる、友人の誠実さや信頼に執着する、悪意のない言葉や出来事に自己への脅迫的な意味を読み取る、うらみを抱き続ける、軽視されていると感じるとすぐに反応する、などの症状がみられます。

 

Dアルコール関連障害

・アルコール依存症→高齢者はアルコール感受性の亢進などがあり発症しやすくなります。

・症状→離脱症状(不快気分・自律神経症状)、 糖尿病、高血圧、認知症、うつ病を合併しやすい。

 

E神経症(ノイローゼ)

・神経症は、ストレスからくるこころの病気の代表で、誰にでも起こり得る病気です。以前はノイローゼと呼ばれていましたが、最近では不安障害とも呼ばれています。

・神経症には様々な種類がある・

@パニック障害→突然、激しい不安に襲われ、パニック発作(動悸、頻脈、胸痛、吐き気、発汗、めまい、呼吸困難など)を引き起こし、今にも死ぬのではないかという恐怖でなすすべがなくなってしまう状態です。発作は数分〜数十分続いて治まりますが、軽い場合でも週に1度、重い場合は週に34回繰り返します。

A全般性不安障害→さまざまなことが心配になって落ち着かず、常に緊張してリラックスできないうえ、震え、筋肉の緊張、発汗、めまい、頭のふらつきなど多彩な身体症状を伴います。そのため、慢性的に憂うつになったり、おっくうになったりすることもあります。

B心気症→病気への心配が異常なほど抜けない状態になります。心配性ともいわれ、ちょっとした体の変調を気にして、医師に不調を執拗に訴え、医学書を読みあさったりします

C脅迫神経症→ある考えが強く迫ってきて、忘れ去ろうとしてもしつこくつきまとい、その考えを消すために、自分でもばかばかしいと思いながら、一定の行動を繰り返します(強迫行為)。例えば、執拗に手を洗ったり、入浴したり、縁起等を何度も確認したりする行為が見られます。

 

高齢者の精神障害に関する過去問題をピックアップ

1 老年期うつ病は、認知症と明確に区別され、認知症に移行することはない。

×老年期うつ病の一部は認知症に移行する(1年後に3%2年後に12%3年後に50%以上)。

2 老年期うつでは、心気妄想、罪業妄想、貧困妄想など発現することがある

〇対応としては共感的態度

3 老年期うつ病では、気分の落ち込みよりも、不安、緊張、焦燥が目立つ。

4 うつ症状には、降圧剤などの薬剤に起因するものもある。

5 老年期うつ病の発症のきっかけは、配偶者や友人などとの死別、仕事からの引退、疾病の罹患などである。

6 老年期うつ病は若年期と比較して、気分の落ち込みが目立たないという特徴がある。

〇一般的にうつ病では、うつ気分、行動の抑制、思考の抑制が主症状であるが、老年期では非定型な病像を示すことが多い。

7 老年期うつ病では不安、焦燥感、情緒の不安定さはあまり見られない。

×老年期では、うつ気分に加えて、不安・焦燥感、苦悶感、情緒の不安定さを示しやすい。

8 老年期うつ病は若年者と異なり、自殺企図につながる危険性は低い。

〇老年期においては、行動の抑制が軽度であるため自殺につながる危険性が高い。

9 老年期うつ病で抗うつ薬を服用している場合は、眠気、口渇、便秘などの副作用が現れやすい。

×その他、ふらつき、尿閉などの副作用がみられる。

10 高齢者のうつ病の背景因子として、社会的役割の喪失や慢性疾患の合併などがある。

〇老年期に初発するうつ病の背景因子としては、配偶者や親族などとの死別、社会的地位の喪失、家庭内の対人葛藤、引越し、身体疾患などがあげられる。

11 高齢者のうつ病は若年期と比べ、気分・感情の落ち込みが目立ち、不安・焦燥感が目立たないことが多い。

×老年期のうつ病においては、不安、焦燥感、苦悶感など否定形な病像を示しやすい。

12 高齢者のうつ病は若年期と比べ、頭痛や肩こりなど身体症状を伴うことが多い。

〇頭痛や全身倦怠感、易疲労性など、さまざまな身体症状を訴えることが多い。

13 うつ病の治療には薬物療法と精神療法があるが、高齢者の場合、精神療法は効果がないので、薬物療法のみを行う。

×精神療法が有効であることもあり、薬剤療法と併用される。

14 抗うつ薬によるうつ症状への効果の発現には時間を要するため、効果がないからと勝手に服薬を中断しない。

〇服薬については、効果がみられない場合も含め、医師の判断を仰ぐ必要がある。

15 老年期気分障害では、うつ気分に加えて、注意力の低下や緩慢な動作などの症状を示しやすい。

○老年期気分障害は気分の高揚した総病棟月分のうつ病を示し、身体症状をしばしば伴う。

16 老年期うつ病では、若年期と比べ、気分・感情の落ち込みが目立ち、不安・焦燥感が目立たないことが多い。

×不安、緊張、焦燥感が目立つ

17 高齢者の飲酒は退職や配偶者の死をきっかけに、飲酒問題が顕在化する場合がある。

〇高齢期の飲酒問題の理由としては、退職や生きがいの喪失、子どもの自立を契機にした孤独感、配偶者や家族の死亡等の心理的ストレスがあげられる。

24 遅発パラフレニーは、脳の器質的病変により生じる。

×脳の器質的病変はない。

25 遅発パラフレニーは、老年期の妄想性障害の代表的な疾患とされている。

〇遅発性パラフレニーは60歳以降に発症する妄想状態を指し,人格や感情的な反応は保たれるというものです。

26 老年期の統合失調症の症状の再発は、配偶者や近親者の死が要因となることがある。

27 老年期うつ病は、認知症と明確に区別され、認知症に移行することはない。

×老年期うつ病の一部は認知症に移行する

28 うつ症状には、降圧剤などの薬剤に起因するものもある。

29 老年期の抑うつの背景要因としては、社会的役割の喪失などがある。

30 老年期うつ病は、1年後に半数以上が認知症に移行する。

×老年期うつ病が認知症に移行することはない。

31 アルコール依存症は、本人の意志や性格の問題である。

×アルコール依存症の大きな要因は、本人の意志や性格の問題ではなく、本人の遺伝情報と飲酒の開始年齢とされている。

32 高齢者の過度の飲酒は、脳血管障害、骨折、認知症のリスク因子である。

〇アルコール依存症者においては、脳萎縮や骨粗しょう症、脳血管障害のリスクが高いとされている。

33 アルコール依存症は、飲酒をやめれば能力障害が生じないと判断されているため、精神障害者保健福祉手帳の対象外である。

×アルコール依存症が原因で、長期に渡り日常生活や社会生活に障害が生じている場合には、精神障害者保健福祉手帳の交付対象となる。ただし、初めてアルコール依存症の診断を受けた日から6カ月を経過していることが要件となる。

34 アルコール依存症のケアでは、飲酒以外に楽しみのある生活ができるまでは、安易に断酒会には参加させない。

×アルコール依存症の治療においては、まず断酒をすすめることが優先であり、断酒会への参加は有効である。

35 老年期のアルコール依存症は、認知症を合併することはない。

×高齢者のアルコール依存症では、認知症を合併する頻度が高くなります。

36 家族関係が希薄な場合には、飲酒問題に気づくのが遅れることがある。

37 アルコール依存症のケアでは、飲酒以外に楽しみのある生活ができるまでは、安易に断酒会には参加させない。

×アルコール依存症の治療においては、まず断酒をすすめることが優先であり、断酒会への参加は有効である。

38 アルコール依存症の患者数に占める高齢者の割合は、近年急速に減少している。

×アルコール依存症の高齢者は増加傾向

39 老年期のアルコール依存症には、若年発祥型と老年発症型がある。

40 高齢者の精神症状は定型的でなく、訴えが多彩かつ曖昧なのが特徴である。

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